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『引っ張る』から『支える』へ。若き女性社長が紡ぐ新しい会社のかたち

みなさんこんにちは、Ampの中村です。
すばらしい電気工事業界の魅力を世の中に伝えるのが仕事です。

今回ご紹介するのは、静岡市清水区で創業58年の歴史を持つ有限会社田引電気工事の3代目社長・田引良枝さん。
2025年4月に社長に就任されたばかりで、「まさか自分が社長になるなんて」と語るその口ぶりには、少しの驚きと大きな覚悟がにじんでいました。

突然の社長交代にも立ち止まることなく、「社員がこの会社でよかったと思えるように」とすぐに行動に移した田引社長。
その姿には、これからの経営に必要な覚悟と実行力が詰まっていました。

若き女性社長が見据える、地域インフラを支える会社の未来。
その想いを是非、最後までお読みください。

有限会社田引電気工事 代表 田引 良枝さん
静岡市清水区を拠点に、中部電力パワーグリッドの協力会社として、配電線の新設・改修・維持工事などを中心に、電力インフラを支える業務を展開し、地域の暮らしを支えています。

有限会社田引電気工事のHP▼
有限会社田引電気工事

電気工事なんて考えたこともなかった――でも今、社長に

──電気工事業界に入ったきっかけについて教えてください
もともとこの業界に入るつもりはまったくありませんでした。
高校卒業後は親元を離れ、寮生活をしながら動物看護師を目指して専門学校に通っていたんです。
そんなとき、母が倒れたのをきっかけに今の会社に事務として入社したのが始まりですね。

正直、「やめたい」と思ったことも何度もありました(笑)。
でも、私がやめてしまったら、また母が過労で倒れてしまうかもしれない。
それに、社員と関わる中で『会社をもっとよくしたい』という気持ちも芽生えてきたんです。

ここまで続けてこれたのは、母と社員の存在が大きかったですね。

──社長交代の話が出たのは突然だったそうですね。
正直、戸惑いました。
去年の11月に父(前社長)から「4月から社長をやってほしい」と言われて、「急すぎて困るよ」と思いました(笑)。
でも、そのとき社員の顔が浮かんだんです。
支えてくれた人たちのことを考えると、私がやらなければと思いました。
会社の課題を洗い出し、短期のアクションプランを立てて、4月の会議で社員に向けてプレゼンし、「やるならちゃんとやりたい」という気持ちを伝えました。

うちは創業58年で祖父、父、私で3代目になります。
地域に必要とされてるインフラを支えている会社ですし、お客様のことを思うとここで終わらせちゃいけない。
そんな思いもあって、引き継ぐ覚悟を決めました。

──社長に就任されてから、日々どんな業務に取り組んでいますか?

今は経営全般を見ているところです。
とはいえ、引き継ぎはまだ完全には終わってなくて現場の業務や日々の対応もしながらちょっとずつ整えてる感じですね。
採用活動にも関わってますし、社員をねぎらうために協力会社さんとの安全パトロールも毎月やってます。

──安全パトロールといった取り組みは田引社長が発案されたのですか?

いえ、もともとは親会社が始めた取り組みなんです。
ただ、私自身も現場で働く社員の様子を自分の目で見たり、ちょっとした会話を大切にしたいと思っていて、社長に就任してからは最低でも週に1回は現場に足を運ぶようにしています。

「いつ社長になるの?」――社員の声が覚悟を決めた瞬間

──社長交代にあたって社員の反応はいかがでしょうか?
社長交代の話が出る前から、「いつ社長になるんですか?」と社員に言われたことは何度かありました。
社長になる前の私は一般事務という立場で、社内の相談役みたいなことをしていたので社員と関わる機会が多かったんです。
経営についてはまだ未熟で現場の知識も勉強中で心細かったですが、そうした声を聞いて「やるしかない」と覚悟を決めることができました。

──先ほど課題を洗い出したとおっしゃっていましたがその中で特に課題と感じた部分はどこですか?
経営を見ていく中で、一番感じたのは「人材育成」ですね。

私が誰かを育てようっていう“上から目線”の話じゃないんです。
どちらかというと、「この会社で働けてよかった」って、みんなに思ってもらえるような場をどう作るかがすごく大事だと思っています。

ありがたいことに、お客様からは「電気の仕事って、本当に助かるよ」って声をいただくことも多いんです。
電気自体が、暮らしの中で“当たり前”すぎて、誰がやってるかってあまり意識されにくいですよね。
だからこそ、普段はなかなか言ってもらえない「ありがとう」の言葉を社員に届けたいし、その言葉を通じて、社員一人ひとりが自分の仕事に自信と誇りを持てるような職場環境をしっかり整えていきたいと考えています。

継いで気づいた、見えなかった父の背中

──前社長はどんな方だったのでしょうか?

父は、どちらかというとトップダウン型で性格も私とは真逆なんです。
だから意見が合わず、何度もぶつかりました。
「現場も知らないのに社長が務まるのか」と言われたり、評価制度を導入したいと話しても「前に失敗したからやらない」と一蹴されることもありました。
でも働き方は変わっているので、今の時代に合うやり方で会社を進めたいと思っています。

そんなふうにやり方はまったく違うけれど、「社員がこの会社で働けてよかったと思える場にしたい」という思いは、父とまったく同じです。
その“想いの芯”が共通していたからこそ自分の考えを信じて提案し、行動できるようになったのだと思います。

——社長を継がれてから、改めて「前社長、すごいな」と感じた瞬間ってありますか?

工事の受注は、すべて口コミなんですよ。
「社長さん、いい仕事してたよって聞いたから電話しました」って言っていただける方ばかりで…。
そういうふうに仕事がつながっていくのは、本当にすごいと思います。

私はどうしても「安全面は大丈夫かな」とか、いろんなことが気になってしまうんですけど、それでも「またお願いしたい」と言っていただけるというのは、父がこれまで積み重ねてきた仕事が、しっかり認められてきた証なんだなと実感しています。

——それはまさに、信頼の積み重ねですね。

あとは社長になって初めて分かったのが、提出書類の多さですね。
賃金や保険、月ごとの売上など親会社に毎月レポートしなければならず、かなりの量です。
それをこなしながら現場にも出て、社内の調整もして……これを何十年も父が一人でやってきたと思うと、すごいと感じるばかりですね。
今は「本来はお前がやるべきことだぞ」って言われながらも、父が資料作成を手伝ってくれているので、本当に助かっています。

“ありがとう”が届きにくいからこそ、誇りを育てる

──最後に電気工事業界の未来を見据えて、どのような会社づくりを目指していますか?

私たちの仕事は、直接「ありがとう」と言われる機会は少ないかもしれません。
繰り返しになりますが、電気が安全に届くという当たり前の毎日を支えること——それこそが、私たち電気工事業の誇りです。
だから私は、目には見えにくい“感謝”を、社員みんなで感じ取れる会社にしていきたい。
「自分の仕事が誰かの役に立っている」と実感できる場をつくることが、これからの経営者としての私の役目だと感じています。

そしてこの業界も、もっと魅力的で、もっと働きたいと思われる場に変えていきたい。
そのために、言葉で、行動で、私自身のスタイルで魅力を発信していきます。

社長としてまだまだ手探りですが、一歩ずつ、仲間と一緒に成長できる会社をつくっていきます。

インタビューを終えて

突然の社長就任の打診に戸惑いながらも課題を整理し、言葉ではなく行動で信頼を築こうとする姿勢。

田引さんは、前社長の「社員がこの会社でよかったと思えるように」という想いを受け継ぎつつもこれまでのように「引っ張る」経営ではなく、一人ひとりの社員に寄り添い声を聞きながら必要な環境を整えていく「支える」スタイルで会社を導いています。
その姿からは、やさしく新しい時代に合った経営のあり方を感じ取ることができました。